AIとドローンでネズミから大切なお米を守る、株式会社ヤマサ・信州大学・松本工業高校の産学連携プロジェクト「いたずらネズミとお手伝いドローン」。
キックオフから半年が経過し、松本工業高校 電子工学部はドローンのプログラム開発を担当し、2022年12月には米穀倉庫内における一次試験飛行(カメラの動体検知をトリガーに、ドローンをリアルタイムで離発着させるテスト)を成功させました。
今回はこの春、高校卒業を迎え、プロジェクトから離れる松本工業高校電子工学部のプロジェクトメンバー(飯森さん、宮沢さん、西脇さん)とヤマサの北爪社長の対談のようすをお届けします。(以下、敬称略)
●後輩たちに背中を見せたいという思いからチャレンジ
― まずは3年生のみなさん、ご卒業おめでとうございます!それぞれの進路へと進み、本プロジェクトは電子工学部の後輩たちに引き継がれると聞きました。
今回、プロジェクトに参画したことで、部としてはどのような影響があったと思いますか?
宮沢 : 部としては、ドローンが配備されたというのが大きかったですね。
飯森 : 僕たち、ドローンが配備されてから、新しいおもちゃをもらって喜んでいる子どもみたいに、ワクワクしながら夜遅くまでずっとドローン飛ばしてました(笑)
― 「ドローンを使う」と聞いたときの感想を教えてください。
宮沢 : ネズミを追い払うのにドローンを使うと決めたのは顧問の先生でした。
正直、聞かされたときには「本当に出来るのか?」って思いました。
ラジコンであれば見慣れているし、ハードウェアの勉強をする中で制御の方法も学んでいましたが、ドローンはほとんど見たことがなくて未知なる存在。どうやって制御すればいいのか見当も付きませんでした。
飯森 : 僕は「ドローンを使う」って言われたとき、ワクワクしていました。普段は操縦して動かすモノを、プログラムで自動で飛ばすという試みがすごく興味深くて。
それにプログラミングの才能がある西脇も、チームをまとめる力がある宮沢もいるし。みんなでやれば、大丈夫かなと思ったんです。
宮沢 : 最終的に決断したのは飯森だもんな。
― 飯森さんが「このプロジェクトをやろう」と最終的に決断した理由は。
飯森 : これまでも電子工学部の先輩たちは、顧問の先生から紹介されたプロジェクトを、自分たちで「やりたい」って言って、取り組んできたんです。
その背中を見てきたので、僕らだけやらない選択をするのもおかしいかなって。あと、そうやって僕らも活動することで、後輩たちに頑張った先に得られるものがあることを伝えられたらと思い、「やりたい」って言いました。
― 北爪社長はドローンでプロジェクトを進めるにあたって、不安はありませんでしたか。
ヤマサ 北爪 : 私も「ドローンでプロジェクトを進められる!」と聞いて、胸が踊りました。
一方、ドローンを自動制御するにはどうすればいいのか…と、漠然とした不安もありました。ですが、松工生の皆さんがみるみる形にしていくのを目の当たりにして、プロジェクトへの期待感もどんどん高まっていきました。
●「PDCA」ではなく、僕らは「DCA」
― 記者会見から約半年。ここまでの過程について教えてください。
宮沢 : 7月にキックオフしたあと、僕らは米穀倉庫内でドローン飛行させるアルゴリズムの開発に着手しました。
その際には倉庫内のテスト環境整備を待ちながら、まず出来る範囲でアルゴリズム開発をしました。環境整備の完了報告をいただき、一体化させたというかたちです。
― なるほど。一体化はスムーズにいったのでしょうか。
西脇 : はい。アルゴリズムは関数化していたので、すぐできました。
― とはいえ、開発には苦労も多かったのではないでしょうか。
宮沢 : ドローン用の開発は初めてだったうえに、基本的には全部独学でやるしかありません。正直、最初はパソコンからドローンへ指示することすらできない状態からスタートしました。ドローンが言うことを聞いてくれなくて、 「なぜだ…」って頭を抱えることも。
インターネットで調べまくって、ありとあらゆるコードを試してみたのですが、入れても入れてもダメでした。そうやって試行錯誤していたら、ある日、突然パソコンからの離陸コマンドが成功して、ドローンが飛ぶようになったんです。
― では、なぜ飛行に成功したかを分析して、アルゴリズムを開発していかれたのでしょうか。
宮沢 : いえ、僕たちは分析をあんまりしないんです。「飛んでよかった!じゃあ、次の課題にいこう!」って感じですね。
「PDCAサイクル」というフレームワークがありますが、僕らは「DCA」なんです。「Plan」がなくて「Do」から始まります。「とりあえずやってみよう」って。
― 北爪社長、これからは企業にもこうしたフットワークの軽さが求められるかもしれませんね。
ヤマサ 北爪 : そうですね。やはり日本には「決まりだから」と変に硬直してしまっている部分がある気がします。どんどん新しいことをやっていくためには、切り替えが早いほうが物事はどんどん進みますから、みなさんの考え方は素晴らしいですね。
●父が薦めたドラッカーのマネジメント論が支えに
― それでは、今回のプロジェクトの中で一番大変だったのはどんなところですか。
西脇 : 僕は開発を担当していたのですが、制約がある中でいかに思い通り動かすかという点が難しかったですね。
また、今回のプロジェクトは、ネズミを追い払うことが目的なので、ドローンが出来るだけ素早く動くよう、司令のメッセージを調整するのが大変でした。
宮沢 : 僕は「カメラで撮られた画角内の座標データ」と「実際の倉庫内のエリア」を紐づけるのが大変でした。カメラの画角内の情報と倉庫の図面、そして実寸の距離を紐づけるのを手書きでやったんです。
それぞれが実寸の距離・角度と異なっていて理論的に考えうる組み合わせを何度も計算しました。ひたすら紙に、書いては消し、書いては消しの繰り返しで、どうにか値を求めていったという感じです。
ヤマサ 北爪: 仮説を立ててアプローチしていくことを繰り返したんだね。
宮沢 : はい。僕らは測量の機材は持っていないですし、大学生みたいにたくさんの数学の方程式が使えるわけじゃないので。地道に四則演算していきました。
― 西脇くんは今回プログラミング言語にPythonを使われたと聞きました。言語の習得にはどのように取り組んだのですか。
西脇 : 僕は小学校の頃からプログラミングに興味があって、中学生の頃にPHPやJavaScriptを学びました。
Pythonは、高校1年生の頃にプログラミングの学習サイトで少し触れていたので、思い出しながらやりました。
ヤマサ 北爪 : プログラミングをやりたいと思ったきっかけはあるの?
西脇 : なんかカッコよかったからですね。「サマーウォーズ」というアニメの影響もあります。
― 宮沢くんはPM(プロジェクトマネージャー)として活躍していましたが、どのようにマネジメントや技術の勉強をしたのですか。
宮沢 : 現場で覚えたことも多いですが、実は父親がPM(プロジェクトマネージャー)を仕事にしていて。マネジメント面で困ったときや技術的にわからないところがあると、よく相談をしました。
― お父さんと話した中で、印象的なエピソードはありますか。
宮沢 : 中3のとき、ピーター・F・ドラッカーのマネジメントの本を親に薦められました。
その時はあまりよくわかっていなかったんですけど、高校生になって部活でマネジメントをやるようになって、親が伝えたかったことがようやく理解できました。
●培ってきた経験と技術を元に、未来へ
― 今回このプロジェクトを振り返って、自分に点数をつけるなら何点ですか。
西脇 : プロジェクトの成果自体は満点に近いかなと思います。でも、僕自身は課題研究や受験で満足に活動できなかったので80点くらいかな。
時間の余裕があったら、もうちょっといろいろ試してみたかったです。どうしたらドローンの動きが早くなるかとか、もっとやりたいことがありました。
宮沢 : 僕は50点ぐらい。僕の目標としては卒業するまでにプロトタイプを完成させたかったのですが、全体の進行としてそこまでいけなかったのが心残りな部分です。
でも、部としては初めて大学と一緒にプロジェクトができたのがよかったと思います。
飯森 : 僕自身の点数は30点ぐらい。僕はあまり器用じゃなくて、一つのことに集中すると他が見えなくなっちゃうんです。だから、このプロジェクトにあまり関われていないときがあって、何回も宮沢に怒られました(笑)
全体で見れば、宮沢のマネジメントと西脇のプログラムのおかけでここまで進めることができたので、満点に近いぐらいの活動はできたんじゃないかなって思いますね。
― 北爪社長も、ここまでを振り返ってみての感想をお願いします。
ヤマサ 北爪 : 率直な感想としては、「本当に出来るんだな」って。
そもそも最初は、取引のある農家さんや当社の米穀倉庫から聞こえてきたネズミ被害が発想の起点でした。リサーチを進める中で「ネズミには天敵がいいらしい」とわかったものの、罠を仕掛けたり音や匂いで威嚇したりなど、旧来的な対策しかありませんでした。
もっとデジタルを活用したソリューションが必要だと思いましたが、当社は2021年にデジタル事業が始動したばかり。当社だけでソリューションを開発するのは難しかったですが、松本工業高校や信州大学のみなさんが「やりたい」と言ってくれたおかげで、どんどん実現に近づいてきて、とっても嬉しいです。言ってみるものだな、発想してみるものだなって勇気が湧いてきました。
(試験飛行の様子)
― 今回の経験で将来に活かせそうなことはありましたか。
西脇 : ひとりで取り組むのもいいんですが、みんなとチームになって分担しながらやっていくことの素晴らしさを学びました。この経験を今後活かしていきたいです。
宮沢 : 得た技術力については大学でも役立てたいなと思います。あと、大学で他のプロジェクトに入ることになったら、今後もマネジメント的な立ち位置をやってみたいです。
飯森 :僕は縁の下の力持ちになれるといいなっていう思いで部活をやってきました。できないことに焦るのではなく、まず目の前のことを大切に取り組んできたので、培ってきた経験はこれからも自分の中で活きていくと思います。
― それでは最後に一言お願いします。
宮沢 : 僕たちはこれで卒業してしまいますが、このあとは後輩たちが頑張ってくれると思います。
社会課題に対する関心も高く、このプロジェクトにもモチベーション高く取り組んでくれるはずです!後輩には開発が出来る子もリーダーシップのある子もいるので、さらにいいプロジェクトになるんじゃないかなって期待しています。
ヤマサ 北爪 : これからみなさんが社会に出ていく頃には、もっとAIが台頭していたり、現時点で想定されている様々な社会課題がさらに顕在化していることでしょう。
経済産業省が発表した「未来人材ビジョン」という資料の中で、これから必要な能力として、物事を客観視する力や問題解決力、コンピュータースキルなどが挙げられていましたが、みなさんはたくさんの経験から学んでいて、すでに一歩先をいっていると思います。これからもどんどんチャレンジしていってほしいですね。
これからの活躍が本当に楽しみです。新生活もぜひ頑張ってください。
(もう一人の松本工業高校 電子工学部のプロジェクトメンバー、大月くんは残念ながら都合によりインタビュー当日、欠席となりました。みなさんありがとうございました。そしてお疲れ様でした!)
(この度、信州大学 大学院 修士課程2年の室賀さんも、課程修了と同時にプロジェクトメンバーを卒業されました。この紙面を借りて御祝いとともに、御礼申し上げます)