株式会社ヤマサ 総務部 デジタル推進課

 株式会社ヤマサは明治3年創業、長野県松本市の地域に密着して150年の企業。地域のインフラ整備・保守を担う建設関連事業をはじめ、燃料事業、食糧事業、ドライアイス事業、さらには蕎麦の通販事業なども展開している。そして近年ではデジタル事業にも力を入れ、DXやAI事業にも進出しているが、一貫しているのは地域のためになる仕事をする、ということだ。今回は代表取締役の北爪さんにお話を伺った。


プロジェクトを始めたきっかけは?

 

北爪社長:ヤマサ150年の歴史の中で、食糧事業が祖業なんです。

 

主に米穀を扱っておりますが、「ずいずいずっころばし」の童謡やその他童話などでも見聞きしますが、お米にはネズミがつきものでして、原料はもちろん設備や機材などに対するネズミ対策についても試行錯誤していました。

 

新しいネズミ対策を社外に求めてみたのですが、罠を仕掛けたり音や匂いで威嚇したりなど、今までやってきた旧来的なものしかなく、この領域にデジタルで新しいことが起こせるのではないか?ということが発想の起点です。

 

 


ソリューションを新規で開発しようと思った理由は?

 

北爪社長:調べてみたところ、世の中にネズミを検知するシステムはあったのですが、設置したカメラで近くにいるネズミを捉えているだけでした。

 

ソリューションとして考えた場合、検知するだけでなく、その後の対応を考える必要があります。

 

そこで、弊社の総務部 デジタル推進課で以前開発した骨材製造のAIによる動体検知が応用できそうだ…と社内での検討が進んでいきました。


倉庫全体の中でネズミを俯瞰で捉えて、少ないカメラでシンプルに全域でのネズミの検知や活動量、数の予測ができるようにしたいと考え、AIの学習を進めていったのです。



AIでネズミを認識する技術の開発は難しかったんでしょうか?

 

北爪社長:車や人、一定の動物とかを検知する一般的なAIのモデルはあるんですね。そのロジックを使ってネズミも検知できるのではと試してみたのですが、ネズミを猫や犬と誤認識してしまい全くダメでした。

 

なので、ネズミを検知するためのオリジナルのモデルを作らなければ、となったんです。

 

 モデル作りはスムーズに進みましたか?

 

北爪社長:ネズミの画像を探してきてAIに覚えさせたのですが、インターネット上にあるネズミの画像って、どうしてもかわいらしいものが多いんです(笑)。

そこで、海外の工場で撮影された暗視カメラのネズミの映像などでモデルを作りました。

 

さらに、安いウェブカメラを購入して倉庫に設置しましたが、なかなかネズミが出現しないので、朝出社したらネズミが映ってないかを確認して…という地道な作業の積み重ねでした。今後は生産者の倉庫など、ネズミに困っている場所があれば、そこで教師データを集めていきたいと考えております。

 

 

 

産学連携プロジェクトとして進めることになったきっかけは?

 

北爪社長:ネズミを検知するところまではいいんですが、弊社の技術では、その後ネズミが出現するところに捕獲器を仕掛けるといった、今までと同じ対応となってしまいます。

何か新たなソリューションはないかなと。

 

調べてみるとネズミには天敵である猫やイタチが効果があるようで、天敵を人為的に放つということも歴史上してきたみたいです。しかし、その後放った天敵が増えすぎて違う害を起こすとか、そもそも目的に対して反応しなかったとも。

 

現実的に猫やイタチといった天敵を放つこともできないですし、また2次被害の心配もない形で、天敵を代理するソリューションはできないかなと考えたのです。

 

そのとき、以前から繋がりのあった信州大学の関係者の方にお話をしたところ、産学連携のコーディネーターを紹介しましょうと仰っていただき、話が進んでいきました。

 

 

 

中村研究室との出会いは?

 

北爪社長:コーディネーターさんを通じて、中村先生が手を挙げてくださって始まったんです。中村先生には松本工業高校さんを紹介していただいて。

中村先生は研究のテーマも技術力も、もちろん素晴らしいのですが、さらに産学連携、高大連携といった多方面に展開して巻き込んでいける頼もしい方なんですね。非常にありがたく思っています。

 

松本工業高校の皆さんの印象はいかがですか。

 

北爪社長:高校生なのに大人や社会と渡り合っている感じがしますよね。eスポーツに取り組む生徒もいれば、ロボコンに取り組む生徒もいて、その中で裏方やマネジメントも経験して…。

 

部活を通じてビジネス的な経験をしていますよね。さらにいろんな仲間が集まって、それぞれの特技を活かして何をしようかと考えていて。

自分たちの技術を世の中の役に立てたい!という決意のようなものを感じますね。

 

実際に産学連携の取り組みをはじめて感じたことは?

 

北爪社長:学生さんたちはモチベーションが非常に高いし、可能性をすごく秘めていますね。

良い意味での不確実性みたいなのがとても楽しいです。デザイン思考の実践というのでしょうか。

これをきっかけに何か新たな着想なんかが生まれてくるといいですよね。

プロジェクトの展望と今後の展開は

 

北爪社長:今回のプロジェクトを通じ、自社のデジタル事業の新しいソリューションとして具体化させることはもちろんですが、それ以上にITを軸にした人材と技術の交流が起きることに可能性を感じています。

 

高校生が早い段階から社会や企業と関わり、自分自身のキャリアを作り上げる事を意識していく。大学の研究室と技術や人材の交流を図ることで、研究を社会に活かしていく機会を作っていく。

 

 

この土台に自社が貢献し、デジタルで社会課題を解決していけるよう取り組んでいきたいと考えています。